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腸管出血性大腸炎

 大腸菌は人や動物の腸管内の常在菌で、通常病原性はありません。しかし、いくつかの大腸菌は人に対して病原性があり、これらを総称して病原性大腸菌(または、下痢病原大腸菌)と呼びます。病原性大腸菌は腸炎を起こす病態に基づいて、次の5つのタイプに分類されています。

 

  1. 腸管病原性大腸菌(EPEC):下痢、腹痛を症状とし、サルモネラ属菌とよく似た急性胃腸炎を起こす。
  2. 腸管侵入性大腸菌(EIEC):腸の細胞内へ入り、赤痢のような症状(血便、腹痛、発熱)を起こす。
  3. 毒素原性大腸菌(ETEC):エンテロトキシンにより、コレラのような激しい水様性の下痢を起こす。
  4. 腸管出血性大腸菌(EHEC):ベロ毒素により腹痛や血便などの出血性腸炎を起こす。ベロ毒素産生性大腸菌(VTEC)とも呼ばれている。
  5. 腸管集合性大腸菌(EAggEC):腸の細胞に付着しエンテロトキシンを産生することにより、散発的に下痢症を起こす。

 

 病原性大腸菌は血清型によりO抗原、H抗原、K抗原の3種類がある。O抗原は1~173型に分けられている。血清型「O157」は、1996年(平成8年)の岡山県邑久郡邑久町での学校給食による食中毒事件、2012年(平成24年)札幌市での白菜朝漬けによるによる集団食中毒事件などで全国的に有名となりました。それ以外にも「O18」や「O26」「O111」「O128」などがあります。

 腸管出血性大腸菌ベロ毒素(または志賀毒素)産生能力を持つ病原性大腸菌のことを言います。ベロ毒素(Vero toxin:VT)にはVT1、VT2の2種類があり、毒性はVT1よりVT2の方が強いとされています。O157以外はVT1のみの毒素をもつが、O157は両方の毒素を産生します。溶血性尿毒症症候群(HUS)を発症した症例では大半がVT2産生菌でした。

 感染しても健康な成人では、無症状あるいは単なる下痢で終わることがほとんどです。しかし、乳幼児や小児、基礎疾患を有する高齢者では、強い腹痛や血便などの出血性腸炎のほか、まれに急性腎不全、血小板の減少、貧血などの症状を呈する溶血性尿毒症症候群(HUS)を引き起こすことがあります。

原因となる食品

 腸管出血性大腸菌O157はなどの家畜が健康保菌状態で腸管内に保持しています。これらの糞便に汚染された食肉が原因食品となります。そして、それらに接触したあらゆる食品が原因食品になる可能性もあります。

この菌は胃酸や乾燥に強く、数個から数百個の「ごく少ない菌量」で感染が成立します。そのため、二次感染の危険性も高く注意が必要です。保育所、療養施設、簡易プール、家畜との接触による感染が見られるほか、家庭内でのヒト-ヒト感染も多く報告されています。集団発生例では給食や飲用水によるものも見られます。

 米国ではベロ毒素産生性大腸菌はハンバーガーパティやローストビーフなど牛肉が汚染源となった事例が多く報告されています。大部分の事件で原因食品が特定されていないことから、予防対策が大変立てにくくなっています。

症状

 潜伏期間は他の病原性大腸炎と比べて長く1~14日、平均3~5日です。感染者の約1/3は無症状あるいは非常に軽症で終わります。有症状者は若年層と高齢層に多く、30~50代では無症状者の方が多い傾向があります。典型的には虫垂炎を思わせる強い腹痛で始まり、数時間後に水様下痢を起こします。さらに、1~2日後に血性下痢(下血)がみられます。血性下痢は、ほとんどが血液で糞便を含まないことがあります。

合併症

 EHECは溶血性尿毒症(HUS)、血小板減少性紫斑病(TTP)、脳症などの重篤な合併症を起こすことがあります。HUSは血小板減少症、溶血性貧血、急性腎不全の三徴をきたした場合をいいます。下痢が始まってから約1週間前後に約3%の患者に発症します。重症の場合は死に至ります。

 HUSの高リスク群は乳幼児、低栄養児、高齢者で、特に病初期から白血球増加の著しい症例では注意が必要です。

検査と診断 

 確定診断のためには糞便から菌を培養し、分離菌がベロ毒素産生性であることを証明する必要があります。ただし、菌の検出は発症から5日を超えると低率となります。

最近では、血清(血液)検査でも診断できるようになっています。

治療

 治療においては重篤な合併症予防と早期発見が重要です。基本は脱水に対する補液(点滴)と抗菌剤(ホスホマイシンまたはニューキノロン)の経口投与です。ただし、抗生剤の使用には未だに賛否両論があります。止瀉剤(下痢止め)や鎮痙剤(腸の動きを止める薬)は菌を腸内に閉じ込め、病原菌の増殖を助長します。その結果、ベロ毒素を大量に産生させるので禁忌です(使用してはいけません)。

予防

 腸管出血性大腸菌は、感染力が大変強く少ない菌量でも感染が引き起こされるのが特徴です。汚染された食品や患者の糞便などを介して感染します。一方、熱に対しては弱く、食品を充分加熱することで菌は死滅します。下記の予防方法をしっかりと行うことで感染を防ぐことが可能です。

 

食中毒対策

  • 生野菜などはよく洗う。
  • 肉類は生で食べない。よく加熱してから食べる(75℃、1分以上)
  • 生肉を扱った後は、手洗い・手指消毒をしてから他の食品を扱うこと。
  • 肉と他の食品は調理器具や容器を分けて処理や保存をする。
  • 冷蔵庫内の食品はよく点検し、早めに食べること。
  • 生肉に触れた調理器具はよく洗い、熱湯や次亜塩素酸ナトリウム(0.02%)や消毒用エタノールなどで消毒する。

感染症対策

  • 調理や食事の前、排便の後には必ず手洗い・手指消毒をする。
  • こどもの排泄後はしっかり手洗い・手指消毒の指導をする。赤ちゃんのおむつ交換後も手洗い・手指消毒をすること。
  • 患者の便で汚染した衣類・寝具・おむつは塩素系消毒剤(次亜塩素酸ナトリウム)などで消毒してから洗濯すること。
  • トイレ内、特に水洗レバー、便座、ドアノブなどは消毒用エタノールなどでこまめに消毒すること。
  • 入浴やプールでも感染の危険性がある。患者はプールの利用は控え、入浴は最後にするかシャワーだけですませる。

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