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たかが便秘、されど便秘(その6)

便秘薬の使い方(その2)-漢方薬

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漢方薬と消化器疾患

 従来、便秘の治療に対する漢方薬には明らかなエビデンス※1)のある薬剤は少ないと考えられてきました。まず作用機序の明らかな西洋薬を使用し、効果がないか十分な効果が得られない時に漢方薬に切り替えるか、併用することが多かったようです。

 しかし近年、大黄甘草湯(だいおうかんぞうとう)や大建中湯(だいけんちゅうとう)など漢方薬において、臨床効果や作用機序に関する明らかなエビデンスが出てきています。その結果、漢方薬をファーストチョイスとすることも多くなってきました。実際、漢方薬は食欲不振や上腹部症状、便秘、下痢などの消化器症状を呈する消化器領域でよく使われる薬剤となってきています。

 センナセンノシド生薬※2)の一つ大黄(だいおう)に含まれる刺激性下剤の代表的成分の一つで、市販の漢方薬にも含まれています。大黄甘草湯などの大黄を含む漢方薬は古くから弛緩性便秘に用いられてきました。

 麻痺性イレウス※3)の治療に用いられる大建中湯は腸管運動を亢進させるため、大腸運動が低下している弛緩性便秘に使用されています。

 防風通聖散(ぼうふうつうしょうさん)は大黄を含む多くの生薬が含まれて、肥満型で腹部膨満感の強い便秘に用いられています。

 桂枝加芍薬湯(けいしかしゃくやくとう)は下痢と便秘を繰り返す過敏性腸症候群に使用されています。

 このように、漢方薬は西洋薬と共に日常診療でよく使用される薬剤となってきています。

 漢方薬は複数の成分を含み、かつ種類も多いため、個々の症状に応じて薬剤を選択することができます。また、複数の生薬がお互い相補い、また一つの成分が過剰に発現するのを抑えるよう、絶妙のバランスで配合されていています。

 したがって、便秘を生理学的な病態から分類し、消化器症状に加え消化器症状以外の訴えや体形などを考慮して使用すると、その効果をさらに高めることができます。

 

※1)エビデンス(evidence):証拠、根拠のこと。医学で臨床結果などの科学的根拠。その治療法がよいとされる証拠・根拠。

※2)生薬(しょうやく):漢方薬を構成する原料であり、植物や動物、鉱物など天然に存在する産物を乾燥や簡単な加工をして得られる薬のこと。「生薬=漢方薬」ではない。例えば、「葛根湯(かっこんとう)」という漢方薬は「葛根・麻黄・桂枝・芍薬・生姜・大棗・甘草」という7つの生薬で構成されている。

※3)麻痺性イレウス:腸の動きが障害され腸の内容物が流れなくなり起こる腸閉塞のこと。原因として腹部の手術後、脳疾患、腹膜炎、薬の副作用などがある。

便秘治療薬としての漢方薬の作用機序

 慢性便秘治療の基本は、①腸管における水分の調節による便の軟化、②腸管粘膜の刺激による腸管運動の亢進、③腸管の過剰収縮を和らげることにあります。したがって、慢性便秘に使用される漢方薬はこれらの作用を有する生薬が数種類配合されています。

①  腸管における水分の調整による便の軟化作用として漢方薬に含まれる成分は、膠飴や芒硝(含水硫酸ナトリウム)があげられます。

  • 膠飴(こうい)は糖類下剤となり便軟化作用があり、癒着性イレウスや小児の便秘にも用いられ薬の副作用の少ない漢方薬です。それぞれ含有量が異なるものの、大建中湯、防風通聖散、調胃承気湯(ちょういじょうきとう)などがあります。

  • 芒硝(ぼうしょう)は塩類下剤であり、高浸透圧により大黄と併用すると寫下作用を強める。調胃承気湯や防風通聖散には大黄と芒硝が含まれていますが、大黄甘草湯より大黄の成分が少ないため穏やかな作用をしめします。

  • 麻子仁(ましにん)は脂肪油を多く含み便軟化作用があり、麻子仁丸(ましにんがん)と潤腸湯(じゅんちょうとう)に多く含まれ高齢者の兎糞状便秘に有効です。


②  腸管粘膜の刺激による腸管運動の亢進作用を有する生薬には、センナやセンノシドなどアントラキノン系誘導体を含有する大黄や山椒などがあります。

  •  センノシド類は大腸で腸内細菌により分解されレインアンスロン(rhein anthorine)となり、腸粘膜の神経細胞を刺激して腸管運動を亢進させます。大黄甘草湯や防風通聖散、麻子仁丸など多くの漢方薬に、それぞれ異なる量で含まれています。

  • 山椒(さんしょう)は腸管粘膜に存在するバニロイド受容体を刺激してサブスタンPを分泌させ、腸管の平滑筋を刺激する作用があることが明らかになっています。大建中湯、麻子仁丸、潤腸湯などに含まれています。


③  腸管の過剰収縮を和らげる作用を有する生薬には、甘草(かんぞう)、芍薬(しゃくやく)が挙げられます。甘草は大黄甘草湯、防風通聖散、潤腸湯、桂枝加芍薬大黄湯(けいしかしゃくやくだいおうとう)などに、芍薬は麻子仁丸、防風通聖散などに含まれています。

 このように、漢方薬には便軟化作用、大腸運動亢進作用、平滑筋の過剰収縮抑制作用を有する生薬がそれぞれ異なった分量で配合されており、症状や病態に応じて使い分けられています(表1)。

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便秘治療薬としての漢方薬の実際

 便秘治療薬としての漢方薬は大腸刺激性の生薬である大黄を含むものと、含まないものに分けて考えると理解しやすいようです。

  •  胃腸が丈夫で栄養状態がよく筋肉質(実証)には大黄・芒硝を主とする漢方薬を用いる。

  •  胃下垂など下垂体質でやせ型や筋肉脆弱な虚弱者(虚証)には大黄と共に芍薬を含む麻子仁丸、潤腸湯、桂枝加芍薬大黄湯を用いる。

  •  痙攣性便秘には大量の大黄・芒硝を含む漢方薬では腹痛下痢をきたしやすいため、麻子仁丸、潤腸湯、桂枝加芍薬大黄湯を用いる。

  •  それでも、腹痛下痢をきたす場合は大黄を含まない桂枝加芍薬湯や小建中湯を用いる。

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漢方薬は自然のものだから安全か?

 漢方薬は「自然の生薬からできているので安全だ」とよく言われています。しかし、便秘に用いられるほとんどの漢方薬に大黄が含まれています。すでに述べたように、大黄を多く含む漢方薬を長期間服用し続けると習慣性が生じてきます。さらには大腸メラノーシスを発症する場合もあります(院長の独り言 第39号 平成28年10月)。

 したがって、漢方薬といえども注意が必要です。長期にわたり使用する場合は大黄の含有量が少ない漢方薬を選ぶ必要があります。

 

たかが便秘、されど便秘-まとめ

  • 慢性便秘は①直腸型(スーパー便秘)、②痙攣性便秘(ストレス型便秘、過敏性腸症候群)、③弛緩性便秘(普通の便秘)の3つのタイプがある。そのタイプにより症状や原因、対処法が異なる。

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  • 下剤の乱用が便秘の原因となる。下剤は排便を促す薬だが、便秘の原因そのものを治す薬ではない。最もよく使われるアントラキノン系の薬は結腸を刺激・収縮させ、自然とは別物の便意・排便となる。通常の便意ではなく「しぶり感」であり、スッキリ感はなく「辛い」排便である。乱用を続けると便秘はさらに悪化する。服用は短期間に留めるべき。
  • 食物繊維は有用。水溶性食物繊維と不溶性食物繊維をバランスよく摂る。
  • 便の形状(ブリストル便形状スコアー)で便の状態を把握することは有用。
  • 下剤を使用する場合は、まず塩類下剤(酸化マグネシウム)、膨張性下剤(ポリフル、コロネル)や分泌性下剤(アミティーザ)などの緩下剤を使ってみる。即効性はないが便を軟らかくして排便しやすい状態に整える。緩下剤でどうしても出ない時や辛い時に限り、刺激性下剤を併用する。
  • 「漢方薬は自然の生薬なので安全」、というのは誤解。大黄を多く含む漢方薬の長期連用は避けるべき。

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