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がんを防ぐ ― 運動とがん

生活習慣とがん

夫婦で運動10.png

 日本人の死亡原因の第1位のがん。生涯で2人に1人はがんにかかり、3人に1人はがんで命を落しています。そのがんの原因は何でしょうか?

 1996年にハーバード大学のがん予防センターから米国人のがんの原因が示されました。この報告によるとタバコと食事がそれぞれ30%。他の生活習慣として運動不足5%、アルコール3%でした。これだけでがんの原因の68%を占めています。

生活習慣とがん(運動).png



















 がんに絶対にならない方法はいまのところありません。しかし、これらの生活習慣を改善することでかなりのがんが予防できる可能性が示されました。ここでは運動とがん予防について考えてみましょう。

 

運動は結腸癌のリスクを確実に下げる

 2007年、WCFR(世界がん研究基金)とAICR(米国がん研究財団)は食品や生活習慣のがん予防に関して「食物・栄養・身体活動とがん予防」という報告書を発表しました。

 
 それによると、①がんを確実に予防できる食品はない、②運動は確実に結腸がんの予防効果があるとされています。

運動とがん予防 - JPHC研究から

 日本人を対象とした多目的コホート研究(JPHC研究)です。45-74歳の男女約8万人を平成7年(1995年)から平成16年(2004年)まで、身体活動量とがん罹患との関連が追跡調査されました。

 ふだんの身体活動量とその後の全部位及び主要部位別のがん罹患との関連を調査。身体活動量は仕事や余暇の運動を含めた1日の平均的身体活動時間を、①筋肉労働や激しいスポーツをしている時間、②座っている時間、③歩いたり立ったりしている時間、④睡眠時間に分けました。これらの各身体活動を運動強度指数METs(メッツ/Metabolic equivalent)に活動時間をかけた「METs・時間」スコアに換算して合計。対象者の平均的な身体活動量を最大から最小と4つグループ分けています(註1)。

 男性37,898人、女性41,873人、合計79,771人が研究の対象となり約8年の追跡調査。その期間中に男性2,704人、女性1,630人、合計4,334人が何らかのがんに罹患しています。

身体活動量の多い人でがん罹患の危険性が低くなる

 男女とも身体活動量が多い群ほど、がんにかかるリスクが低下していました。身体活動量の最小群と比較した場合、最大群のがん罹患リスクは、男性で0.87倍女性で0.84倍でした。低下の傾向は女性でよりはっきりと見られています。さらに、高齢群や余暇の運動頻度の多い群で、よりはっきりとした低下が見られていました。

 

 部位別に見ると、身体活動最大群では男性は結腸がん・肝がん・膵がん女性は胃がんで有意に罹患リスクが低下していました(図2,3)。

身体活動とがん罹患、男性.png
身体活動とがん罹患、女性.png




































 身体活動量が低いグループには、もともと体調が悪いために運動ができなかった人が含まれるかもしれません。そこで、その影響を避けるために研究開始から3年以内にがんになった人を除いて分析もされています。その結果は変わりませんでした。

 

註1)身体活動の強さの単位 「メッツ」(METs)

  • 座って安静にしている状態を「1メッツ」とし、その何倍に相当するかで身体活動の強さを表す。

運動・スポーツ...軽い筋トレ=3.0、自宅での軽い体操=3.5、野球=5.0、エアロビクス=6.0、ジョギング=7.0...。

  • 生活活動...普通の徒歩=3.0、モップかけ・掃除機かけ=3.5、床磨き・風呂掃除3.8、速歩=4.0、階段を上がる=8.0、...。

身体活動の量の単位 「エクササイズ」(Ex)

「メッツ」に実施時間を掛けた数値が、身体活動の量「エクササイズ」。
(例)30分普通に歩いたときの身体活動量:3メッツ×0.5(時間)=1.5エクササイズ(メッツ・時)

身体活動量を増やすことががんの予防につながる理由

 この研究では男女とも仕事・余暇に限らず全体的に身体活動量が多いグループほど、がんにかかる危険性が低下する傾向が見られています。身体活動量の増加により、がんにかかるのを予防できる理由は完全に解明されてはいません。肥満の改善をはじめ、性ホルモンやインスリン・インスリン様成長因子(IGF-1)の調節、免疫調節能の改善、フリーラジカル産生の抑制などがメカニズムとして推察されています。

  • インスリン抵抗性を改善する

運動によりインスリンの働きが良くなり、腫瘍の増殖作用やアポトーシス(異常細胞の自滅)の抑制作用をするインスリンやインスリン様成長因子の放出量が少なくなることにより発がんリスクが下がる(註2)。

 

註2)インスリンとがん

 インスリンは血糖値を下げる働きのあるホルモンです。私たちの健康・生命を維持するのになくてはならないものです。糖尿病とはインスリンの働きが低下して血糖値が上昇し、種々の病的状態を引き起こす病気です。しかし、このインスリンの量が多すぎても種々の弊害がでてきます。


 糖尿病患者にはがんが多いことはよく知られた事実です。インスリンの働きが低下(インスリン抵抗性)すると、それを補うため体はインスリンの分泌量を増やして(高インスリン血症)、低下したインスリンの働きを補おうとします。

 インスリンは血糖値に関する働き以外にも、腫瘍の増殖作用やアポトーシス(異常細胞の自滅)の抑制作用をもっています。したがって、糖尿病による高インスリン血症は、腫瘍の増殖作用やアポトーシス抑制によりがん発症のリスクを増加させます。

 

  • 肥満を改善する

 肥満はインスリン抵抗性や全身の炎症状態を引き起こし、発がんリスクを高める。運動によって肥満を予防したり改善したりすることで発がんリスクが下がる。

  • 内臓脂肪を減少させる

脂肪組織は男性ホルモンや女性ホルモンを作り出している。性ホルモンに関係したがんは性ホルモンの分泌が多いほど発がんリスクを高める。運動によって脂肪組織を減らすことで発がんリスクが下がる。

  • 免疫機能の改善

体を活発に動かすことで、免疫系で働いているマクロファージやナチュラルキラー細胞、好中球、サイトカインなどがコントロールされ、免疫機能が改善される。

  • フリーラジカルの産生抑制

 適度な運動量により、身体に悪影響を及ぼすフリーラジカル(不対電子を持っている不安定な原子や分子)の産生が抑制される。ただし、激しい運動は活性酸素やフリーラジカルを増加させ脂質やタンパク質、DNAの損傷につながる。また、中等度の運動では抗酸化物質の損失を抑制するため、そのバランスによって運動は有益とも有害ともなり得る。

  • その他
  1. 運動をすると大腸内の内容物の通過が促進される。その結果、発がん物質と大腸粘膜の接触時間が短くなるので大腸がんにかかりにくくなる。
  2. がんの中には性ホルモンやプロスタグランディンというホルモンが過剰に分泌されることが発生に関わるものがある。運動はこれらのホルモンの過剰分泌を抑えることが知られている。


がん予のための運動は適度を心がける

 がん予防のための運動は、「適度な運動」がお勧めです。激しい運動を習慣化すると体内の活性酸素やフリーラジカルの産生が促進されます。それらがDNA(遺伝子)を傷つけて、がん化を促す可能性があります。


 適度な運動を続けるには、「日常生活でのまめな動き」と「運動やスポーツ」を組み合わせることがコツです。厚生労働省が策定した「健康づくりのための身体活動指針2013」では、がんを含めた生活習慣病の予防のために、身体活動(生活活動+運動・スポーツ)として、3メッツ以上の強度の身体活動を毎日60分行い、そのうち3メッツ以上の強度の運動を30分以上・週2日以上行うことを目標に指導しています(別表)。

 これまで運動やスポーツの習慣がなかった人が急に始めると、けがをしたり長続きしなかったりします。まずは、軽い運動や活動から始めて、自分のライフスタイルに合った時間や種類を選びながら、無理なく継続できるようにしましょう。

がんの予防には、日頃からよく動くことが大切

 今回の結果から、よく動いている人ほど、がんにかかるリスクが低くなることが分かりました。リスク低下は身体的活動の種類には関係がありません。男性と女性、仕事をしている人としていない人、家事のある人とない人などによって日頃の身体活動の種類は異なることが多いと考えられます。しかし、自身の生活の中で可能な方法により、よく動く時間を増やしていくことが、がんの予防につながると考えられます。

ニコニコ運動がお勧め

 運動の種類は、歩行、ジョギングなどいつでもどこでもできる運動がおすすめです。ただし、激しすぎる運動をすると関節障害や心臓疾患の原因になりやすく、免疫力が逆に下がる場合もあります。「ニコニコ」と続けられる程度の運動を心掛けましょう。

別表 → 身体活動指針2013.pdf

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