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がんを防ぐ ー 食道がん

有名人と○○。彼らに共通するものは?

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 淡路恵子、やしきたかじん、中村勘三郎、立川談志、藤田まこと、桑田佳祐、小澤征爾、なかにし礼。

 彼らには共通する「あるもの」があります。それは何でしょうか?

 食道がです。前の5人は亡くなっています。後の3人は現在、闘病中です。

 食道がんは、「自覚症状に乏しい」「転移しやすい」、「悪性度が高い」という特徴があります。初期症状が出にくく、見つかった時はかなり進行していることが多い。食道には漿膜という臓器を包む膜がないため周辺に転移しやすい。手術や色々な治療を受けても致命率が高い。この様な「たちの悪いがん」の代表の一つです。

さけとたばこ.jpg

 上にあげた8人に共通するものが、さらに二つあります。「酒」「たばこ」です。

 食道がんは「酒飲み」で「喫煙者」に多い病気です。全くお酒を飲まず、たばこも吸わない人には、ほとんど発生しません。酒のみで喫煙者は男性に多く、女性では少ない傾向があります。したがって、食道がんは男性に多く認められます。


お酒を飲んで、すぐ顔が赤くなる人は要注意

お酒 顔が赤くなる.gif

 暑い夏の日や汗をかいた後のビールは格別です。しかし、あなたが「コップ1杯位のビールで、すぐに顔が赤くなる」なら問題です! もしそうなら、あなたは食道がんになりやすい体質かもしれません。

 飲酒で「顔が赤くなる」ということは、アルコールの分解がスムーズにいかず、アルコールが分解される過程で発生するアセトアルデヒドが、体内に蓄積しやすい体質だということを意味します。このアセトアルデヒドは飲酒後の、顔が赤くなる、胸がドキドキする、頭痛、吐き気、嘔吐などの不快な症状(フラッシング反応)を引き起こします。そして、ひどい場合は、悪酔いや二日酔いとなります。さらに、それだけに留まらず、がんを発生させる毒物(発がん物質)にもなります。

 飲酒で赤くなる人(フラッシャー)は、アセトアルデヒドを分解するアルデヒド脱水素酵素(ALDH)という酵素の活性が弱いためです。日本人の約45%はALDHの活性が弱い体質(遺伝子)を持っているとされています。

 ALDH活性が弱いにもかかわらず、付き合いなどで飲みはじめました。そして、それを続け鍛えると、次第に酒に強くなってきます。やがて、晩酌も欠かせない体になるかも知れません。しかし、体質は訓練によっても変えることはできません。すなわち、アセトアルデヒドが毎日蓄積し、食道などに炎症が発生します。さらに、この炎症からがんが発生してきます。

 実際、ALDH活性の弱い(酒に弱い)人でよく酒を飲む人の食道がんの発生率は、ALDH活性が強い(酒に強い)人で酒をよく飲む人の12倍にもなっています(久里浜医療センター 横山顕)。

アルコールの代謝10.png

 
















アルデヒド脱水素酵素(ALDH)とその遺伝子多型と発がん

 アルコール(エタノール)は主に肝臓でアルコール脱水素酵素によりアセトアルデヒドに変換されます。有害のアセトアルデヒドを無害の酢酸に変換する酵素が、肝臓にあるアルデヒド脱水素酵素(ALDH)です。この酵素は少なくとも14種類あります。アルコール処理のほとんどは1型と2型で行っています。


 1型は血液中のアセトアルデヒド濃度が高くないと働きません。2型は低い濃度でも働きます。したがって、アセトアルデヒドを分解する主な酵素は2型(ADLH2)です。残念ながら(?)、日本人の約半数は生まれつきALDH2の活性が弱いか欠けています。

 2型アルデヒド脱水素酵素(ALDH2) は、517個のアミノ酸から構成されるたんぱく質です。このうち504番目(以前は487番目とされていた)のアミノ酸を決める塩基配列の違いにより、3つの遺伝子多型に分かれます。グアニンを2つ持っているGGタイプ(遺伝子対が両方ともGタイプ:GGホモ型)、グアニンの1つがアデニンに変化したAGタイプ(遺伝子対のうち片方がAタイプで他方がGタイプ:AGヘテロ型)、2つともアデニンになったAAタイプ(AAホモ型)です。


 GG
タイプのアルデヒド脱水素酵素の代謝活性に対し、AGタイプは約1/16の代謝活性しかありません。AAタイプにいたっては代謝活性を失っています。AGの活性が1/16であるのはアセトアルデヒド脱水素酵素が4量体を形成し、Aタイプが優性に活性を無力化してしまうために起こってしまうためです。

 アセトアルデヒドは毒性が強く、悪酔い・二日酔いの原因となります。アセトアルデヒド脱水素酵素の活性が弱いということは、毒性の強いアセトアルデヒドが体内で分解され難く、体内に長く留まるということを意味します。すなわち、AGタイプ・AAタイプは、アセトアルデヒドの毒性の影響を受けやすい体質という事になります。したがって、ALDH2は「酒に強い」GGタイプ、「酒に弱い」AGタイプ、「酒を飲めない」AAタイプの3つタイプ分かれます。


 ALDH2の遺伝子多型は生まれつきの体質で、人種によってその出現率は異なります。「酒に弱い」AGタイプと「酒が飲めない」AAタイプは日本人を含むモンゴロイドにのみに認められます。これに対して、コーカソイド(白人)とネグロイド(黒人)は全て(99%以上)「酒に強い」GGタイプです。ちなみに、日本人ではGGタイプは50%強、AGタイプは約40%、AAタイプは約5%とされています。

アルコール脱水素酵素(ADH)とその遺伝子多型と発がん

 それなら、「私は大丈夫だ。酒を飲んでも顔は赤くならない」と安心される方もいらっしゃるかと思います。残念ながら、安心するのはまだ早いようです。

 摂取したアルコールは主に肝臓でアルコール脱水素酵素(ADH)によってアセトアルデヒドに変換されます。ADHには少なくとも6種類(ADH1~ADH6)があります。主として働くのはADH2です。

 ADH2は最近では、ADH1Bと呼ばれる様になりました。このADH1Bには働きの弱い酵素(低活性型)と強い酵素(高活性型)があります。低活性型の人ではアセトアルデヒドへの代謝が遅いため、フラッシング反応が弱いことが多くの研究で証明されています。また、大量に飲酒した場合、低活性型では飲酒翌日までエタノールが残って酒臭い体質であることも報告されています。日本人の約1割が低活性型とされています。


 低活性型ADH1Bの人は飲酒量が増える傾向があり、アルコール依存症になりやすいとされています。事実、アルコール依存症患者では約30%が低活性型です。

 また、低活性型ADH1Bの人は高活性型の人と同程度の飲酒でも、低活性型の人の方が約7倍(1.6~8.4倍)食道咽頭がんになりやすいことも分ってきました。

ALDH2 欠損型と ADH1B 低活性型は最悪の組み合わせ

 この遺伝子型の組み合わせは日本人の 2~3% に過ぎません。しかし、日本人の約 5 割を占めるどちらの遺伝子も持たない人と比べて、同程度に飲酒したとすると 30~40倍も食道がんや下咽頭がんになる危険性が高いことが分かってきました。


 さらに悪いことに...。ALDH2 欠損者の多くは飲酒で不快な反応を起こす人(フラッシャー)です。しかし、ADH1Bが低活性のためアセトアルデヒドの初期産生がゆっくりで、フラッシング反応が起こりにくく、赤くなりません。そのため、自分は酒に強い体質と錯覚し飲酒量が増えていく傾向があります。

アルコール代謝酵素の違いによる飲酒の影響.png

















アルコールとアセトアルデヒドの発がん性

 WHO(世界保健機関)の評価(2007年)では、飲酒は口腔・咽頭・喉頭・食道・肝臓・大腸と女性の乳房がんの原因となるとされました。アルコールそのものにも発がん性があると認定されています。また、少量の飲酒で赤くなる体質のアルデヒド脱水素酵素の働きが弱い人では、アルコール代謝産物のアセトアルデヒドが食道と咽頭・喉頭のがんの原因となるとも結論づけています。

 なぜ、そうなるのか? 口腔内の常在菌はアルコールからアセトアルデヒドを産生します。そのため、飲酒後の唾液中のアセトアルデヒド濃度は、血液中のそれより10倍位の高濃度となります。ALDH2 欠損者ではさらに 2~3 倍の高濃度になります。このように、口腔、咽頭、食道は高濃度のアセトアルデヒドに暴露され、がんを発生すると考えられています。

アルコール飲料の種類と食道がん
 アルコール飲料の種類との関係では、ウイスキーや焼酎のようにアルコール度数が高い酒の方が、ビールなどの様なアルコール濃度が低い酒の方より、食道がんの頻度が高かった。
 これは、アルコールが直接食道粘膜を障害することによりアセトアルデヒドなどの発がん物質が粘膜に浸透しやすくなるためと考えれれている。

アルコールの種類と食道がん.png












酒と
タバコと食道がん

 「タバコ」と肺がんの関係はよく知られた事実です。タバコの煙が直接触れる口腔・咽頭・喉頭や肺のがんはタバコと深い関係があります。また、直接には煙が触れない食道・胃・肝臓・膵臓などでも、喫煙によりがんのリスクが高くなります。


 そのなかで、食道がんは飲酒と喫煙が重なるとリスクが上昇します。特に、お酒に弱い人が、酒を飲みながら喫煙すると飛躍的にリスクが上昇してしまいます。なぜでしょうか?

①   タバコの煙には約60種類の発がん物質が含まれている。

②   タバコの煙には発がん物質アセトアルデヒドは含まれている。この煙が喫煙により直接口腔内に入る。

③   喫煙が(飲酒により高くなった)アセトアルデヒドの口腔内の濃度をさらに高める。

 これらの相乗作用により飛躍的にリスクを高めるとされています。

 東京大学医科学研究所の松田浩一准教授は食道がんと健常者の遺伝子を解析し、次の様なことを明らかにしました。ALDH2と ADH1Bのいずれも欠損型でない体質の人が、飲酒も喫煙もしない場合の食道がんになる危険性を1とします。この体質の人が飲酒と喫煙をすると、食道がんになる危険性は3.44倍。ALDH2と ADH1Bのいずれも欠損型の人(上述の「最悪の組み合わせ」)のリスクは6.79倍。その体質の人が飲酒と喫煙を同時にすると、さらに28倍の189倍になることを示しました。


 すなわち、酒に弱い人が酒とたばこをやると、酒に強い人が酒もタバコもやらない場合より、190倍食道がんになりやすいということです

アルコール分解関連遺伝子と酒とたばこと食道がん20.png



















その他の食道がんのリスク因子と予防因子

 飲酒と喫煙以外に、肥満が確立したリスク要因です。欧米人に多い食道腺がんでは、食べ物や胃液などが胃から食道に逆流する「胃食道逆流症」に加え、肥満で確実にリスクが高くなるとされています。最近、日本でもこの胃食道逆流症による「食道腺がん」が増えてきています。


 また、熱い飲み物や食べ物がおそらく確実なリスク要因とされています。熱いマテ茶を飲む習慣のある南ブラジルやウルグアイでは、食道がんが多くみられます。


 逆に、野菜(でんぷん質のものを除く)や果物の摂取はおそらく確実にリスクを下げるとされています。日本の多目的コホート研究により、野菜と果物の両方を多くとることでリスクが減少すること。また、喫煙と大量飲酒による食道がんのハイリスクグループでのリスクを1/2以下に減少することが明らかにされています(JPHC研究2008)。

食道がんを防ぐには

 日本人の場合、酒も飲まずタバコも吸わない人から食道がんはほとんど発生しません。これだけで、90%の食道がんが予防可能です。したがって、喫煙者はまず禁煙を! そして、適量の飲酒を心掛けましょう。熱い飲食物は冷ましてから口にします。野菜や果物を積極的に摂るようにしましょう。とくに、喫煙者や飲酒者では食道がんのリスクを軽減してくれます。

あなたの飲酒による食道がんのリスクは?

 あなたのアルコール飲料による食道がんのリスクは、次の2つの方法で知ることができます。

1.簡易フラッシング質問法 

  • ビ-ルコップ1杯で顔が赤くなる体質がありますか?
  • (今はなくても)飲酒を始めた最初の 1~2 年にありましたか?


 上のどちらかに該当する場合は、感度90.1%・特異度95.1%で ALDH2 欠損者(フラッシャー)ということができます。この方法を用いて遺伝子解析に匹敵する食道癌のリスク評価ができます。

 そして、毎日 1.5 合以上飲酒するフラッシャーは食道や下咽頭に発がんするリスクは極めて高いとされています。したがって、あなたが上の質問でどちらかに該当し、かつ40 歳以上の男性であれば、飲酒習慣を変更することと、専門家による内視鏡検査を受けることをお勧めします(久里浜医療センター 横山顕)。

久里浜医療センター

 → お酒で赤くなる体質を用いた食道がん高危険群のスクリーニングテスト



2.アルコールパッチテスト

  • パッチテープ(薬剤のついてないガーゼ付きの絆創膏)に、市販の消毒用アルコールを2~3滴しみこませます。
  • これを上腕の内側に貼ります。
  • 7分後にはがし、はがした直後(5秒以内)に、ガーゼが当たっていた部分の肌の色を見ます。
  • さらに10分後に、もう一度肌の色を見ます。

 

アルコールパッチテストの判定

  • 肌の色に変化なし → ALDH2活性型(白型タイプ)

ガーゼをはがした部分が赤く変化しない人は、ALDH2酵素が、正常に働いているので、体内でアルコールを分解する力が強いタイプです。ただし、飲酒が原因の生活習慣病になりやすいのもこのタイプで、アルコール依存症になる危険性も持ち合わせています。節度ある飲酒を心がけましょう。

  • 十分後に肌が赤くなる → ALDH2低活性型(赤型タイプ)

ガーゼをはがした部分が赤く変化した人は、ALDH2酵素の働きが悪いので体内でアルコールを分解する力が弱いタイプです。飲酒すると頭痛や吐き気を引き起こします。大人になっても飲酒を上手に断るか、無理してお酒を飲む事はないように心がけましょう。

  • はがした直後に肌が赤くなる → ALDH2不活性型

このタイプの人はお酒が飲めません。勧められても断るようにしましょう。

 *注意:ただし、高齢者では皮膚の赤みが出にくく、精度が低くなる傾向があります。

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